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- 2018/1/6
《ドクターズコラム》2018年冬「どこまで下げる?」【しまばら病院】
明けましておめでとうございます。新年早々、縁起が良い事ではありませんが、どこまで下げるのがよいのか?というお話をさせていただきます。
まずは、血圧についてです。収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上または拡張期(下の血圧)が90mmHg以上で高血圧と定義されていますが、収縮期血圧が120mmHgを超えると心臓血管系の合併症が増えることがわかっています。では、高血圧の方の血圧をどこまで下げるのがいいのでしょうか? それについて検討した大規模な臨床試験が、最近二つ発表されました(ACCORD BP試験とSPRINT試験)。収縮期血圧を120未満に強力にコントロールするのと140未満にほどほどにコントロールするのを比較したところ、強力なコントロールが心筋梗塞や脳卒中などの心血管合併症や心血管死を減らすという結果が一つでは得られ、もう一つの試験では減らさないという全く逆の結果に分かれました。しかし、二つの試験での共通した点は、強力な血圧コントロールによって、低血圧によるふらつきなどの症状や、腎臓の働きの悪化、高カリウム血症などの電解質異常が多くなるということでした。この結果から言えることは、下げすぎによる副作用に注意が必要であるということです。
では、高血圧をどこまで下げれば良いのでしょうか? その答えは日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2014に示されており、若年・中年・前期高齢の方は140/90未満、後期高齢の方は150/90未満(忍容性があれば140/90未満)、糖尿病の方や腎臓が悪い方は130/80未満という値です。
次に、血糖値についてはどうでしょうか? 2型糖尿病では、しっかりとした食事療法と運動・禁煙など生活習慣の改善、適切な薬剤を併用して血圧・脂質・血糖の厳格なコントロールなどを総合的に行うことで、心血管合併症が減り、生命予後が改善されることが示されています(Steno-2試験)。そこで、糖尿病の薬を使って血糖値を強力に下げることで予後が改善するかどうかが検討されました(ACCORD試験)。その結果、強力に血糖値を下げることで死亡率が増えたという、予想とは逆の結果となりました。そうなった原因は、血糖を強力に下げすぎて低血糖が増えたためと言われております。
では、糖尿病の血糖値はどこまで下げれば良いのでしょう。日本糖尿病学会では、血糖コントロール目標は患者さんの年齢や病態などを考慮して患者さんごとに設定するとしていますが、合併症予防のための目標としてHbA1c(1〜2ヶ月間の平均血糖レベルを表す値で正常は6.2%未満)を7.0%未満に設定しています。従いまして、まずはHbA1c 7.0未満を目標に食事療法、運動療法を一生懸命頑張って、併用する薬剤は低血糖を生じにくいものが良いということになります。
さて、最後はコレステロールについてです。ここまで述べてきた血圧や血糖については、下げすぎは良くないということになりますが、コレステロールはどうでしょうか? コレステロールについても世界中で沢山の研究が行われており、その結果から導き出された管理目標が、日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」に示されています。それによると、患者さんの年齢、性別、喫煙、血圧、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患家族歴、善玉(HDL)コレステロール、悪玉(LDL)コレステロール、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)の既往などによって、どこまで下げるかという管理目標値を決めるようになっています。その中で、冠動脈疾患の既往のある患者さんでは悪玉(LDL)コレステロールを100mg/dl未満に下げるように指針が出ています。さらに、家族性高コレステロール血症や急性冠症候群(急性心筋梗塞や不安定狭心症)を合併する場合は70mg/dl未満のより厳しい目標を考慮するとなっています。また、喫煙、メタボ、危険因子の重複などを合併する場合もそれに準じた管理を考えると言われています。このようにコレステロールをどんどん下げても大丈夫なのでしょうか? 答えは、大丈夫なのです。実は、スタチンというコレステロール低下薬をより多く投与してLDLコレステロールをさらに下げることで予後が改善する事が、最近の日本の臨床試験(REAL-CAD試験)でも示されました。また、新しい注射薬で悪玉(LDL)を30mg/dlぐらいまでに下げても問題なく、さらに予後が改善する事がわかりました。つまり、冠動脈疾患の方においては、悪玉(LDL)コレステロールを下げれば下げるほど予後が良くなるという事ですので、スタチンを手加減する事なく目一杯服用していただく事をお勧めします。
以上のとおり、血圧や血糖は下げすぎると却って問題を生じることがありますが、冠動脈疾患を合併した方のコレステロールについては、強力に下げれば下げるほど良いということが示されています。
最後に、私自身に関しては、お正月で増えてしまった体重をどこまでどうやって下げるか、まずは真剣に取り組みたいと考えております。日々、減量に取り組んでおられる方がたも、目標体重まで下がるよう頑張ってください。
本年もよろしくお願い申し上げます。
琵琶湖岸で見た平成30年の初日の出
第54号 しまばら通信より・2018年 冬
<このコラムの執筆:院長 高橋 衛>
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