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- 2017/4/6
《ドクターズコラム》2017年春「食欲に関係するストレスには2種類ある 」【しまばら病院】
食欲に関係するストレスには、大きなストレスと小さなストレスの2種類ある。大きなストレスは、「身内が亡くなった」、「会社を首になった」などの場合で、血中のアドレナリンやノルアドレナリンが大量に放出され、全身の代謝が亢進し、脳の交感神経の中枢が満腹中枢でもあるので、満腹感で食事も食べられなくなって痩せ細ることになる。一方、小さなストレスは、日常茶飯事なストレスで、「近所の人に悪口を言われた」、「上司に怒られた」などのイライラ感で、エンドルフィンやセロトニンと言うホルモンが関係し、甘いものを食べたりアルコールを飲むと解消されるが、結果として肥満になってしまう。若い女性で「失恋したのでイライラして食べて食べて太ってしまった」と言って受診される方がおられる。しかし、私は「そんなに食べられるならその相手はそれほど重要な人ではなかったのですよ」とお話ししています。
このように、我々の肥満外来では、患者さんが日頃感じているストレスを把握し、取り除くストレスマネージメント療法を治療に先立ち行っています。「どの位1日で食べたり飲んだりするのか?」を聞いた後、多すぎると感じた時は、「なぜそんなに食べたり、飲んだりするのですか」と聞いています。すると患者さんの過食・過飲酒の原因が浮かび上がってきます。
例をあげてみます。
症例:45歳女性(159cm、120kg)の場合。
26歳で東京から京都の老舗旅館に嫁いできた(当時は47kg)。姑から毎日、外出するたびに「どこにいくの」、「何しに行くの」「いつ帰ってくるの」と聞かれ、監視されているようで、「もう行かない」と外出をやめ、好きな羊羹やシュクリームを食べていた。すると20年後120kgまで体重増加した。主人が、「心臓麻痺で死ぬぞ。肥満の専門医へ行って痩せろ」と言うので、「ここに来ました。痩せさせてください?羊羹で肥満したことはわかっています。でもやめたら私のイライラ感は爆発してしまう」と。治療開始前の血液検査では血糖値が175mg/dl、HbA1c7.6%と食べ過ぎて2型糖尿病も高度肥満症に加わっていた。そこで、私は、イライラ感を落ち着かせる為に、自由に出かけられるようにと、「毎食後30分間は散歩に出なさい。お母さんには『肥満の先生から痩せる為に毎食後30分間は散歩に行けと言われたので行ってきます。30分後には帰ってきます』とだけ言っておきなさい」と指示した。すると、1ヶ月後「自由に散歩に行け、姑から監視されているという感覚がなくなった。今なら、食事療法が守れそうです」と言われた。そこで、1,100kcal減量食の指導を行った。受診の都度、体重減少に成功すると「よく頑張った」と褒めた。3ヶ月後98kg、6ヶ月後79kg、9ヶ月後62kgになった。
この間、私たちの提唱する食前キャベツダイエットを実行されたこともあり、9ヶ月後も顔・手足にはシワもなく綺麗にやせられた。9ヶ月後の糖尿病の検査による2時間後の血糖値も110mg/dlと正常型を示し健康体になられた。
このように日常茶飯事的なストレスが過食・過飲酒に走らせるのです。ある開業医さんは、肥満患者は、「『痩せ痩せ』と言ったら、2kg位痩せるが3ヶ月もすると元の体重よりもっと太っている。痩せと言わなかった方がましだ」などと言われる。しかし、5分間診療と言われるように、多くの患者を診察するため、血液検査の結果だけ見て投薬する医師も多いような気がする。もちろん患者の精神的ストレスのような内面に踏み込んだ診療には時間がかかる。私は、「肥満治療成功の秘訣」というタイトルで日本全国の医師会や糖尿病療養指導士の会で年間40回程度講演している。少しでも多くの先生方に、思いやりを持った診療により、一度成功すると面白くて病み付きになる減量成功体験をしてもらいたいからである。
第51号 しまばら通信より・2017年 春
<このコラムの執筆:糖尿病内科部長 吉田 俊秀>
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